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風呂デューサーコラム
2016/01/13

【小説】真実湯のものがたり~第11湯 輝きだした神棚~

jkamui173
フリーバス ブログ

旅館、真実湯(まことゆ)の湯守(ゆもり)をしとります、ゲンといいます。

よく温泉に入ると肌にいいとか、病気が治った、なんて話を聞きますがね、
温泉の本質はそういうことじゃあないんですな。

私は長年、お湯と向かい合って、はいられたお客さんと話し合って、
いろんなお風呂の側面っていうものを見てきたんですよ。

 

 

輝きだした神棚

 

風呂デューサー 毎川直也 温泉

 

 

「ゲンさん!大変だ!すぐ風呂場来て! 」

 

裸で脱衣場からとびだしてきた常連のお客さんの形相があまりにも深刻だったもんで、
誰かが転んで頭ぶつけたんじゃないかと背筋がゾゾッとしました。

 

帳場に救急車が必要かもしれない旨を伝えて、すぐに浴室に飛び込みました。

 

「大丈夫ですか!?」と叫んで床を見渡しても、誰も倒れていません。
湯船に目をやってみても、誰も溺れていません。

 

想定外の事態を想定して来た私にとって想定外で、数秒固まってしまいました。
このときの私の様子はものすごく滑稽だったようで、ずーっと笑い話にされています。

 

硬直が解けてもう一度辺りを見回すと、お客さんたちはみな天井の隅を見ています。
その先には神棚があるんです。お湯の神様を祀っています。
常連のお客さんにとってはいつもの光景がそこにはあるはずなのに…いったいなにがあるのか。

 

「おい!ゲンさん!すごいぞこりゃあ。なにかいいことがあるんじゃないか?」

 

振り返るとさっき脱衣場からとびだしてきた常連のお客さんでした。
それを確認した私は怪我人がいないことを察し、あらためて視線が集まる神棚に目をやりました。

 

 

 

神棚はほんのり丸い光で照らされていました。…
そう言われてもピンとこないですよね。

 

いままでこんなことはなかったのです。
そこを照らす電灯があるわけでもないですし、窓の上部にあるので直接光が当たることもありません。

 

その丸い光はゆらゆらと揺れ、しばらくするともやもやした光になって消えて行きました。

 

「ゲンさんなんだよ、あの縁起良さそうな光は。あんなの見たことねぇやな。」

 

「そうですね、長いこと勤めてますが、神棚があんなに光っているのは見たことないですね。」

 

そのときお風呂に入っていたお客さんによると、
ぼんやりと神棚が輝き始めたかと思うと丸っこい光になって、
またぼやけて消えたのだそう。
時間はちょうど日暮れ時、その時間いつも来る常連さんも初めて見たものだったそうです。

 

 

 

翌日、同じ時間に浴室の様子を見に行くと、この日も神棚は輝いていました。

 

三日間、同じ時間に様子を見ると、日暮れ時の決まった時間に神棚は輝くようです。

 

原因を探るのも野暮だとは思いましたが、浴室の外を調べてみました。

 

浴室の外は一方通行のT字路になっています。
この路地、とても狭いもんで、曲がるときに横っ腹をぶつける車が相次いでいるんですな。
この道はいつも見る風景なんですが、浴室の窓近辺を見上げてみると、
新しくカーブミラーが設置されていました。

 

ピンときましたよ、これが原因だと。
日が傾いてきたときこのミラーに日が当たり、窓を通して湯船に反射、
それがさらに洗い場の鏡に反射して神棚を照らしているに違いないんですよ。

 

 

 

この時期晴れの多い真実湯で、珍しくこの日はどんよりと曇っていました。
私の想像通り、その日は神棚が輝くこともありませんでした。
この時間に来る常連のお客さんはがっかりした様子でしたね。
得意げになって私は常連のお客さんに言ったんです。

 

「あの光は最近できたカーブミラーに夕日が反射してでるものなんですよ。
天気が悪いといつものようにはいかないですね。」

 

「ゲンさん……知ってるよ。そんな無粋なこというなよな。」

 

みんながありがたがるこの現象を解き明かした私は得意げでした。

 

「俺たちにとっては神棚が輝くなんて、理由はどうあれありがたいことなんだよ。
いつもはいっている温泉がすごくいいものだって感じられてさ。」

 

原因なんて必要なかったんです。神棚が輝く、ありがたいこと。
いつも入っている温泉に縁起の良い変化が起きた。それでよかったんです。
原因を探すなんて野暮だと思っていたはずなのに、思わずしゃべってしまった自分が恥ずかしい…

 

「私としたことが…失礼しました。」

 

 

 

それ以来、そのカーブミラーを磨くのは私の仕事になりました。
これも湯守の仕事だと、自信を持って言えますね。

 

神棚が輝く時間になると、常連さんが一喜一憂し、
たまたまその時間にはいっている一見さんに神棚が輝く話をして、
いまでは真実湯が一番盛りあがる時間になっています。

 

 

 

後日談ですが、物理の研究をしている学者さんがいらした時のこと。
この現象を見たんです。

 

「あの神棚、輝いていましたね。
外の光が反射してあそこにあたるっていうのはわかるんですが、
光はどんどん散って行きますから、あんなに強く神棚まで光がさすのは考えにくいですよ。
この空間になにかそうさせる要因があるのかもしれませんね。」

 

神棚が輝く原因……なにかって?温泉の神秘ですよ。はいって体感してください!